今回はNAIOP(National Association of Industrial and Office Properties)が開催した11月の朝食会の模様をお伝えしたいと思います。

この朝食会については以前にもお話しさせて頂きましたが、基本的には朝7時から7時半まで参加者が各々のネットワークを広げる時間で、7時半から朝食が始まります。そして8時から1時間、司会者と4名のパネリストとの議論や意見交換が行われるスタイルになっています。

1)性格と仕事への向き合い方

11月のトピックはバンクーバーのオフィス市場についてで、ディスカッションはJones Lang LaSalle社の仲介業者によって進められ、パネリストは機関投資家に所属するアセットマネージャー2名とオフィス仲介業者(CBREColliers)2名でした。

今回の朝食会が特に面白かったのは、業界のポテンシャルと言うより、各自パネリストの性格が現状における仕事への向き合い方に表れていた事です。

例えば、機関投資家達は会社のサイズに影響されてか基本前向きで強気でした。しかし、仲介の一人は、現状や将来の可能性についてはプラス思考であっても、市場はまだ闇の中にあって、そこから抜け出すためには更なる混乱が来るだろうと予測し、本人のコンサバな方針が表に出ていた気がします。

しかし全体的にはコロナ禍安定期に入ったにも関わらず、全てが初めての経験で予測不可能な状況という事で、テナント企業によるオフィス需要の判断は注意深く行われており、判断が遅れ気味であると話しています。結局はRTO(リターンツーオフィス)もやってみなければ分からないというのが心情で、これから社員や従業員のフィードバックも取り込みながら進めていくという状況です。

2)コロナ禍のバンクーバー不動産市場の特色

その様な中、バンクーバーの市場は一際活発でコロナ禍の影響が最小限に抑えられていると北米の不動産業界では認知されていますが、その「秘訣」が最初のトピックとして討論されました。

キーワードは「空室率」でした。

バンクーバーの特色としては
· ハイテクのハブである: コロナ禍期間中でも米ハイテク企業は継続してバンクーバーに流入している。ハイテク業界の雇用はコロナ期間中でも2倍!
· 世界的都市: 世界的に好まれる自然と生活環境が豊富
· 本社所在都市ではない: 当初から従業員数は最小限で賄われているので、解雇(による失業者数)も最小限。

これらの特色がバンクーバーを世界不況の影響から守り、現状の安定した経済を維持させています。

その様な中、2021年に入りサブリーススペースが一時的に市場を席巻しました。これについては
· 大企業の懸念要素が川の流れの如く下流にあたる中小企業に影響をもたらし、これが全体的な節約ムードを押し上げました。しかし、経済の影響も最小限に終わる傾向が出ると、一気にサブリースは撤回され、それらスペースは各社のポストコロナの成長に充てられました。

· 在宅環境における「待って見る(Wait and See )」状態がこの流れを起こしましたが、活発なハイテク関連企業などは行政の長期建築申請期間についていけず、サブリーススペースに入居する事で行政の建築申請期間に対抗する行動に出ました。この様な状況を大家も歓迎し、サブリースを破棄し新規リースとしてハイテク企業を入居させる動きが始まりました。

よって、リターンツーオフィス(RTO)は未だ不確定要素を残していますが、中長期展望をベースに企業は既に動き出している状況です。そしてクラスB、Cのオフィスビルでは以前のブログでもお話ししたように、資本注入工事が行われ、全体的なオフィスビルの質上昇が行われています。

3)コロナ禍のオフィス不動産の動向

では、コロナ禍セールは全くなかったのかといえばそれは嘘になります。サブリースはヘッドリース(新規賃貸)には敵いませんので、ヘッドリースはサブリースがなくなるまで一般的に残りました。また、各大家の運用戦略が大きく影響し、賃料設定枠も幅広く、「市場価格」は合ってない様なものでした。

中でもテナント工事補助金(Tenant Improvement)は跳ね上がっており、新築物件では一平方フィート$250(一平米約24万円)が現在の平均値と説明されていました。10年前までは(もしかしたら5年前でも可能かもしれませんが)この金額は$50でも大盤振る舞いな金額でした。

しかし、現在ではテナント企業もRTOを実施する為に贅沢なオフィス環境を構築する流れがあり、デベロッパーの中では行政の建築申請期間の短縮の為に全てのテナント工事をデベロッパーの工事として行う流れも出ています。これによりコスト償却のためにも、今までの平均であった10年賃貸借契約は15年間に延長されてきており、オフィス不動産業界は新たな段階へ突入している感じがします。

機関投資家が着工している新築物件において、潤沢な資金投入と引き換えにテナントに寄り添った契約体系を結ぶことは、竣工時にいち早くテナントを誘致して賃貸収入を得るという利益を生みますが、これらはクラスAAAの新規物件に限定されたものになるのではないかと思います。他のクラス物件では、まず新築物件が存在せず、投入したコストと得られる利益の不均衡さから、このような物件運営を行うことは不可能であると考えるからです。

今後のバンクーバー市場を考えた時、年末までに約40万平方フィート(約37,000平米)のスペースが竣工予定ですが、うち25万平方フィートは既にAmazon社により予約締結済みです。よって、新規流入は存在しないのと同然の状況です。更にマイクロソフトや他のIT企業の存在も大きく、継続して空室は限定されてしまうと思われます。

しかし、IT業界における在宅勤務の需要は今後も継続する見込みで、ベンチャーレベルのIT企業が多いバンクーバーでは、これがどうオフィス不動産業界に影響するかは、今後注視していく必要があると思われます。

そして、この在宅勤務も含め今後のオフィス不動産業界は引き続き変化が継続し、オフィス不動産バージョン2もしくは3に突入していく事になるだろうとパネルは締めくくりました。

4)今後の予測

私の個人的な意見としては、バンクーバーの世界的な人気は2022年と先も継続すると思っています。特に地球温暖化による地形や気温の変化により北米の沿岸形態は日本同様大きく変化していく事でカナダ(特にBC州への)人口流入は増加すると思います。そしてこのように不安定要素が増え続ける世界経済の中においても、溢れ続ける資産は継続してセーフハーバー(安全な投資先)を求め、カナダへ流入することは間違いないと思います。

BC州政府の対応にもよりますが、住宅市場は今後も潤い、価格の上昇は逃れられないと思います。カナダ人は自分たちも全員元移民民族であり一般的に温厚で歓迎モードですので、外国人を含め住宅所有権利を限定する動きには消極的です。そして人口爆発が何処で起きるのかは未知ですので、見通せない所があるのも事実です。

オフィス業界に関しては今後も差別化と具体的な戦略の差が顕著になっていくと思います。極端な例で言えば、機関投資家レベルが取りかこむ超高級クラスのオフィスビル建設と、弊社などが取り扱うフレックスオフィス(ロフトタイプオフィス)のテナント層にもさらに明確な差が出てくると思います。最高レベルの技術者を世界から呼び込む為に高層ビル内の最高質のオフィス化を進めているIT企業が多い中、特に若い西洋のIT技術者は高層オフィスビル職場環境を好まない人たちが多いので、その流れも長くは継続しないのではないかと感じています。

しかし、モダンな代用物件(例えば弊社が構想していた1270 Frances Street物件)が存在しない為、その方向への流れはもう少し時間がかかるかも知れません。よって、我々への機会もまだまだ存在すると思っています。

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